
| 港区は6月から、区立の幼稚園や小中学校に対する保護者や住民からのクレーム、トラブルの解決法を教員に助言する専門弁護士を全国で初めて配置した。学校と保護者や地域社会の関係が「信頼」から「警戒」に変わりつつある。これまで八丈島では地域と学校が密接な協力関係を保ってきたが、保護者や教員の意識も変化してきており、いつまでより良きパートナーでいられるかはわからない。島内で最も小規模となった末吉小学校(田代直樹校長、児童数23人)の教育現場から、地域と学校の関係について考える。田代直樹校長(61)は、01年4月に赴任して今年で7年目。本来は昨年度いっぱいで定年退職だったが、都がスタートさせた管理職の再任用制度で、今年も校長として末小に残ることになった。 赴任そうそう、地域参加の学校行事を巡ってPTAと学校側で行き違いがあり、PTAの役員数人が校長室に乗り込んでいったことがあった。結局、前任者からの引き継ぎが不十分だったことがわかり、田代校長は地域の意向に添った方向で行事計画を元に戻した。これがきっかけになり、学校と地域住民が率直に話し合う関係ができた。「感情的なしこりも残らず、地域の方にも目配りをしてくれる姿勢が伝わった」と同席したPTAの一人はその時の印象を話す。 それから、学校内で唯一喫煙が許される校長室は地域のサロンに発展。用事もない人が世間話に立ち寄ったり、卒業した中・高生が気楽に遊びに来るなど、学校と住民のコミュニケーションの場となっている。 「子供を学校に預ける保護者は、教員との面談で意外と本音は言いにくい。無駄話の中では、『えっ、そんなことがまんしてたの』と驚くような話も出てくる。学校が胸を開き、いいことも悪いことも隠さずに説明することで、オープンな関係が築かれる」と田代校長は指摘する。 全国的に学校と保護者、地域に対立の構図ができつつある中で、末吉では地域と学校が一緒に子育てをするという意識が定着している。田代校長は「自分たちの手で作り、育ててきた学校だという自負、愛着が住民に深く息づいている。末吉中学校が統合され、地域の拠点として小学校の役割はより大きくなった」と分析する。 学校行事をみるとそれはより鮮明だ。ほとんど地域イベントといえる運動会には、卒業した中・高生も積極的に参加する。学芸会を広い体育館でやるのは、保護者以外の地域住民まで、こぞって見に来るからだ。 行事の前ともなると住民は準備に土、日、そして平日の夜まで忙しい時間を割く。必要な材料や労力も持ち出しだ。保護者に限らず、住民誰もが嫌な顔一つせずに黙々と学校のために汗をかく。 学校側も地域に甘えてばかりじゃいられない。教員は地域の行事にできる限り参加する。「命令はできないが、住民がそこまでしてくれれば、教員も知らない顔はできない。赴任したばかりの教員はカルチャーショックが大きいようだが、保護者の視線で教員も成長する」と田代校長。 いくら地域との関係が良好といっても、学校へのクレームがないわけではない。「教員にはクレームは管理職が対応するから、何も言ってこない親をしっかりフォローするよう話している」。子供を預けているから、がまんしている親もいるからだ。 教員がクレームや地域との関係で萎縮して、任期を適当に過ごされると、結局子供が損をすることになる。子供に真剣に向き合ってもらうためにも教職員が仕事をしやすい環境、居心地の良い職場を作ることが管理職の役割だ。 行政のバックアップも必要になる。「教育は学校の責任でも、教育環境の整備は教委の役割。区市の教育委員会は高圧的な感じがするが、町の教育委員会は学校と同じ立場になって提案を聞いてくれる」と評価する。 末小では夏休み中にPTAの責任でプールを開放する。区市では専属の監視員を置かなければ考えられないことだ。元PTA会長の沖山邦喜さんは「プールが新しくなったとき、校長が『自分が責任をとるから、全面開放する』と言い出したので、『ちょっと待ってよ』と止めて、保護者が自己責任で子供の面倒を見ることを条件にした。子供のことにいつも本気になってくれるから、こっちも本気で応えるしかない」と語る。 別の保護者は「PTAも長くなると、自分の知り合いだけに便宜を図ったり、親の顔色を見て態度を変える教員はすぐわかる。田代校長はどの子供にも地域の誰にでも分け隔てなく公平な立場で接してくれ、決して学校を私物化しないから信用している」と、信頼関係の根っこを指摘する。 写真は末小の浜遊び風景。白長靴姿が田代校長。 |